企業や施設における空調設備は、単なる「快適性」を提供する装置ではありません。
生産性・顧客満足・従業員の健康管理、さらには 企業の運営リスクやコスト管理にも直結する重要インフラ です。
しかし、実際の現場では
「調子が悪いけど、まだ動いているから様子見」
「壊れたら修理すればいい」
という“事後保全”に依存してしまうケースが少なくありません。
本記事では、エアコン業界・設備管理担当者に向けて、
いま注目されている「予防保全」の考え方と導入メリット、実施のポイント を解説します。
■「予防保全」とは?
予防保全とは、空調が故障する前に状態を把握し、
故障の芽を事前に取り除くための計画的メンテナンス手法 です。
▼ 代表的な予防保全の種類
- 定期点検保全:フィルター・熱交換器・ドレンラインなどの定期清掃
- 部品交換保全:寿命が近い部品を故障前に交換
- 状態監視保全(CBM):運転データを見ながら異常兆候を察知する手法
- IoT保全:遠隔監視センサーで稼働データを収集し診断
近年は IoT 技術の進化により、法人向け空調でも “見える化” と“自動診断” が主流になりつつあります。
■ 事後保全(壊れてから修理)ではダメな理由
法人空調の故障は、単なる修理費用だけでは済みません。
事業者にとっての “目に見えない損失” が非常に大きいからです。
1. 営業停止・作業停止のリスク
- 工場 → 生産ライン停止
- 店舗 → 顧客離れ・売上減少
- 介護施設 → 体調不良・クレーム対応
- オフィス → 従業員の集中力低下・熱中症リスク
空調トラブルは、事業継続(BCP)にも影響します。
2. 繁忙期は修理が“すぐ来ない”
夏の故障は、修理依頼が殺到するため
「3〜7日待ち」が一般的。
その間のロスは計り知れません。
3. 修理費が割高になる
異常運転を続けた結果、
- コンプレッサー破損
- 基板焼損
- 冷媒漏れの悪化
など、修理範囲が広がり 高額修理 になるケースが多数。
4. 電気代が跳ね上がる
劣化した空調は効率が大きく低下。
年間電気料金が10〜30%増える ことも珍しくありません。
■ 空調の予防保全を導入するメリット
予防保全には次のような効果があります。
◆ 1. 故障リスクを大幅に低減
熱交換器の汚れ、ファンの負荷、冷媒量などを定期的に管理することで、
突発故障の発生率を 50%以上抑えられる と言われています。
◆ 2. ランニングコストの最適化
適切なメンテナンスにより
- 電気代削減
- 修理費削減
- 部品交換の計画化
など、運用コストが安定します。
◆ 3. 設備寿命の延長
空調は本来、10〜15年の耐用年数がありますが、
予防保全を行うと寿命が 1.2〜1.5倍 伸びることも。
◆ 4. BCP(事業継続)対策として有効
災害時・猛暑時に空調が止まるのは企業にとって致命的。
企業のリスクマネジメントとしても重要視されています。
■ 予防保全の具体的なポイント
① 年2回の定期点検
・熱交換器の洗浄
・フィルター洗浄
・冷媒圧力チェック
・排水ライン点検
→ 基本の予防保全。最低でも夏前・冬前の2回は必須。
② 3〜4年周期の分解洗浄
法人空調は使用時間が長いため、
内部に汚れが蓄積しやすい環境。
分解洗浄で
- 熱交換効率の向上
- カビ・菌対策
- 電気代削減
が期待できます。
③ IoT遠隔監視システムの導入
近年は、AIとIoTで
“空調の自己診断” ができる時代。
取得データ例:
- 運転電流
- 吸込み温度/吹出し温度
- 圧縮機負荷
- フィルター目詰まり度
- 冷媒量の異常傾向
異常が出る前にアラートが届き、
計画修理や部品交換がしやすくなります。
④ 更新計画の作成(10〜15年)
予防保全は“延命”が目的ではなく、
適切なタイミングで更新する判断材料にもなる ことが重要。
更新モデルを導入すると
- 最新省エネ機
- インバーター性能向上
- 高効率熱交換器
により、電気代が 15〜40% 下がることも。
■ 企業が今すぐ始めるべき予防保全アクション
- 現状の空調台帳を整理する
- 年間メンテナンス計画を作成
- IoT・遠隔監視の導入検討
- 5年以内の更新候補機をリスト化
- 信頼できる業者に専門点検を依頼する
特に、複数拠点を持つ企業・病院・介護施設・工場では
予防保全の導入効果が非常に大きい と言えます。
■ まとめ:空調は「壊れてから」では遅すぎる
法人空調は、企業の活動そのものを支える基盤設備。
突然の故障は
売上・生産性・安全性すべてに影響 します。
だからこそ、
空調管理は“予防保全”がスタンダードになる時代。
・故障前に対策できる
・コストが最適化される
・リスクが最小化される
企業価値の向上にもつながる重要な取り組みです。

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