オフィスビル、商業施設、病院、工場、学校などの大型施設では、冬場の乾燥対策が重要なテーマです。家庭用加湿器とは異なり、広い空間を均一に加湿するには空調設備側での加湿制御が欠かせません。その中心となるのがエアハンドリングユニット(エアハン)による加湿方式です。
本記事では、エアハンの役割から代表的な加湿方式、メリット・デメリット、設計時のポイントまで、空調設備の専門視点で分かりやすく解説します。
エアハン(エアハンドリングユニット)とは
エアハンとは、建物全体の空気を処理する大型空調機のことです。外気と室内空気を取り込み、以下の処理を行います。
- 冷却・加熱
- 加湿・除湿
- ろ過(フィルター)
- 送風・換気
大型施設では、各室に家庭用エアコンを設置するのではなく、エアハンで処理した空気をダクトで各エリアに供給する方式が一般的です。そのため、加湿もエアハン内で集中管理されます。
なぜ大型施設で加湿が必要なのか
冬場の大型施設は、暖房運転により室内湿度が大きく低下します。湿度が下がると以下の問題が発生します。
- インフルエンザやウイルスの拡散リスク増加
- 静電気トラブル(精密機器・工場ラインへの影響)
- 喉・肌の乾燥による体調不良
- 木材・紙製品・製造工程への影響
特に病院や工場では湿度管理が品質や安全に直結するため、空調設備としての加湿は必須のインフラといえます。
エアハンで使われる代表的な加湿方式
大型施設の加湿方式は用途や規模により使い分けられます。ここでは代表的な方式を紹介します。
1. 蒸気加湿(スチーム加湿)
■ 方式の概要
ボイラーや電気ヒーターで水を加熱し、水蒸気として空気中に供給する方式です。エアハン内部のダクトに蒸気を噴霧し、送風とともに室内へ供給します。
■ メリット
- 加湿量を正確に制御できる
- 衛生性が高く、病院やクリーンルームに適している
- 温度低下が少ない
■ デメリット
- 設備コスト・ランニングコストが高い
- ボイラー・電源設備が必要
2. 気化式加湿(蒸発式・濡れフィルター式)
■ 方式の概要
濡らした加湿エレメントに空気を通し、水分を蒸発させて加湿する方式です。家庭用気化式加湿器と原理は同じですが、エアハン用は大型の加湿エレメントを使用します。
■ メリット
- 消費電力が少なく省エネ
- 過加湿になりにくい(自然蒸発)
- メンテナンスが比較的容易
■ デメリット
- 加湿能力が外気条件に左右される
- フィルターのスケール・カビ対策が必要
3. 超音波加湿(ミスト噴霧式)
■ 方式の概要
超音波振動で水を微細ミスト化し、空気中に噴霧する方式です。エアハンのダクト内や室内側に設置される場合もあります。
■ メリット
- 立ち上がりが早く加湿量が大きい
- 消費電力が比較的少ない
■ デメリット
- 水質管理が重要(白粉・菌の拡散リスク)
- 精密用途では不向きな場合あり
4. 高圧微細噴霧(スプレー加湿)
■ 方式の概要
高圧ポンプで水を微粒化し、ノズルから霧状に噴霧する方式です。大空間(体育館・工場・倉庫)などで採用されます。
■ メリット
- 広範囲に大容量加湿が可能
- 大空間に適している
■ デメリット
- ドレン処理・水質管理が必須
- 設計・制御が難しい
加湿方式の選定ポイント(設計者の視点)
大型施設の加湿設計では、単純に加湿量だけでなく以下の要素を総合的に判断します。
■ 用途(病院・工場・オフィス・商業施設)
用途によって衛生性・精度・コストの優先順位が異なります。
■ 加湿精度(±何%制御が必要か)
クリーンルームや医療施設では高精度制御が求められます。
■ ランニングコスト
蒸気加湿は高コスト、気化式は低コストという傾向があります。
■ メンテナンス体制
フィルター交換、水処理設備、定期洗浄の計画が不可欠です。
加湿と換気・空調制御の関係
加湿は単独設備ではなく、換気・暖房・冷房と密接に関係します。
- 外気導入量が多いほど加湿負荷は増大
- 暖房温度が高いほど相対湿度は低下
- 除湿運転とのバランス制御が必要
BEMS(ビルエネルギー管理システム)や中央監視と連動し、温度・湿度・CO2濃度を統合制御するのが現代の大型施設空調の標準です。
空調会社・設備業者にとっての加湿提案の価値
加湿設備は空調工事の中でも付加価値が高い分野です。省エネ提案や健康対策、BCP対策(事業継続)とも結びつけることで、顧客への提案力が大きく向上します。
特に以下の市場で需要が拡大しています。
- 高齢者施設・医療施設
- 食品工場・半導体工場
- 教育施設・保育園
- オフィスビルのウェルビーイング対応
まとめ:大型施設の加湿は「空調設計の中枢技術」
大型施設における加湿は、単なる快適性対策ではなく、健康・品質・生産性を支える重要インフラです。エアハンに組み込まれる加湿方式は多岐にわたり、用途・コスト・精度要求に応じた最適設計が求められます。
空調設備の高度化が進む今、加湿技術は差別化の重要テーマです。温度だけでなく湿度まで制御する空調こそが、次世代の建築環境品質の基準となるでしょう。
大型施設の空調計画やリニューアルを検討する際は、加湿方式の選定まで含めた総合的な空調設計が成功の鍵となります。


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